ひらがなの手紙

ひらがなの手紙


配役表 男:女=2:1
さや・さや(幼)女
朗・朗兄(手紙)男
和希・父(兼役)男

※セリフは「」もしくは()の中となっております。
括弧内以外の文章は情景を思い浮かべる際に、登場人物の心情や動作をの参考にして頂ければと思い記載してあります。

おすすめテーマ・エンディング曲:秘密基地

( http://www.nicovideo.jp/watch/sm4312804?group_id=35583434 )





さや(幼)「パパ、これから公園いってくる!!」

父「あぁ、さやは本当にあの公園が好きだね。またブランコにのるのかい?」

さや(幼)「うん!あの丘の公園でブランコにのると、

      まるでお空飛んでる気分になれるんだよ!」

父(幼)「それはすごいね!お父さんも一回のってみようかなぁ」

さや「ダメ!さやが乗るんだから!」

父(幼)「わかったわかった。それじゃあ気を付けて行ってくるんだよ」

さや「うん!行ってきます!!」



公園到着

さや(幼)「ふぅ、到着!!

      やったぁ、誰もいない!ブランコひとり占めできる!!」
ブランコに駆け寄ると手紙が置いてあった

さや(幼)「何だろ…手紙」
手紙を見る

朗兄『こんにちは、さやちゃん。
   いつもきみが見せるえがおはあたたかくて、
   きみがいるだけでこの世界は明るくなって、

   どんどんとカラフルにいろどられていく。
   あまりにもきれいなこの世界をきみがあいしているように、
   ぼくもこの世界を、きみと同じけしきを見てみたい。』


さや(幼)「誰かなぁ…すてきな手紙。

      でもひらがなばっかりだ。難しくてよくわかんないけど、
      好きってことなのかな?きゃあどうしよう!!!男の子かなぁ」
顔を真っ赤にして、笑顔ではしゃぐさや

さや(幼)「初めてお父さんとお母さん以外のひとに好きって言われたのかも…      ふふふ」


さや(生まれてはじめて、生まれてきてよかったのだ…

   私はこの世界に受け入れられているのだと、実感することができた。

   ただそれだけで、

   これほど笑顔になれるのだということもその時はじめて知った。
   私はこの手紙に幸せというものを教わった)


家に帰る



さや(幼)「おとーさーん!ただいまー!!」
小さな手にすこしくちゃくちゃになった手紙を大事そうに抱えてさやは、
縁側から居間にいる父親と母親にうれしそうな顔を向けた。

父「さやちゃん、どうしたんだい?何かいいことでもあったの?」

さや(幼)「ないしょー!おしえてあげないよー!」
ぷいっと笑顔を90度回転させる。

父「なんだー、さやちゃん教えなてくれよー…じゃないと…こしょぐっちゃうぞー!」
縁側にいるさやを捕まえて抱っこしながらくすぐる。

さや(幼)「きぁー、やめてー。あははははははは!

      だ、だってお父さんに見せるのは照れくさいんだもの!!
      大人になったら教えてあげるから。だーかーらーやめてー」
父親の手から逃れてパタパタと自分の部屋へと走っていくさや。

父「まったく、いつの間にあんなにおませになったんだろうね」
眉を八の字にして笑顔で脱ぎ捨てていった靴をそろえながらお父さんが呟く。


さや(ベッドの上には猫が一匹まんじゅうのように真ん丸になって寝ている。

   私の大切な妹セピアだ)


さや(幼)「セピア、聞いて!

      ひらがなばっかだし、字だってぜんぜん上手じゃないんだけど、
      すっごい素敵なお手紙が届いたの。

      実は意味はよくわかってないんだけどね。
      でもとてもきれいな言葉なのはなんとなくわかるんだ。

      私、このお手紙、大事にするんだ」



10年後



さや「ふぅ、なんでテスト前って急に片付けしたくなるんだろ。

   それについ、いろんなものを懐かしんじゃうのよね。
   …昔はよかったなぁ……。高校生って思ってたより楽しくないんだもん。
   この手紙をもらったころは毎日がきらきらしてた気がするなぁ」
ベッドにごろんと寝ころんで手紙をじっと見つめる

さや「なんで名前くらい書かないのよ。

   ひらがなばっかだけどこんな素敵な手紙なのに。
   あー、来週から模試だと思うと、このころに戻りたくなっちゃうよ」

父「さや、スイカ切ったからすこし休憩したらどうだぁ?」

さや「スイカ…あぁもう休憩!今降りるからちょっとまっててー!!」
一階からお父さんの間延びした声とスイカという響きに、

すっかりと勉強への意欲は途切れた。


縁側でスイカを食べながら来週の模試の結果が少し不安になってくる。


さや「このあとは夏期講習かぁ。行きたくないなぁ」

父「気持ちはわかるけど、受験するって決めたなら勉強しといて後悔はないぞ」

さや「そうだけどさぁ」


ピーンポーンとチャイムが鳴る


朗「おーい、さやー。そろそろ行こうぜー」

さや「あれ、もうそんな時間?」

父「おや、本当だね。もう予備校の時間だよ」

さや「ちょっと待っててー!!部屋に鞄取りに行ってくるから!!」
部屋にかばんを取りにいく。

さや「セピアはいいねぇ寝てるだけで。それじゃあ、行ってきます」
セピアに声をかけて玄関に急いで走った。


朗「おっせーぞ、さや。夏期講習遅刻すっぞ」
朗がいつもの軽い口調で笑いかけてくる。

さや「うるさいなぁ、まだ大丈夫だよ」

和希「いや、けっこうあぶないよ。さや、少し急いでくれ」
和希がいつもの眼鏡優等生なセリフで笑いかけてくる。


さや「ちょっと、待って。急ぐからちょっと待って」


朗「おい、俺の時とのその差はなんなんだよ!」

さや「朗と和希で扱いが違ってくるなんて当たり前じゃん。

   それが嫌ならもうちょっと真面目に生きなさいよ」

朗「はぁ?俺はいつでも真面目だっつうの」


さや(いつも通りのバカと優等生との夏休み。といっても半分は夏期講習だ。
   こんな友達がいなければとっくに私は受験なんて放り出して、

   家でスイカ食べながらごろごろしていただろう。)


さや「ふぅ、今日も夏期講習終わったね。

   あれだけ遅刻すっぞってうるさかった朗が講義中寝てるってどうなのさ」

朗「ち、ちげえよ!

  あれはだなぁ…その…寝てると思わせて敵の油断をさそったんだよ」

さや「ばっかじゃないの、そんな中学生みたいな言い訳しちゃってさぁ」

和希「あ、さや、朗ゴメン。あいつも講義がおわったみたいだ」
和希が言う。

さや「あいつ…ねぇ…あいつって誰のことかなー…

   もしかして彼女さんのことかなー?」
別に和希が好きなわけじゃないけど、

こういう時彼氏がいないとついつい嫉妬してしまう。

和希「あんま意地悪な態度とらないでくれよ」
和好きは少し困ったような顔で笑うが、

やっぱりそのメールを見る目はとてもやさしい。

さや「いいけどさぁ、昔は学校からだって3人で一緒に帰ってたのに…。

   ちょっとさびしいなって」

和希「だから今でも登校の時は3人いっしょだろ?

   今度また3人でどっか遊びに行こう。それで勘弁な、じゃあな」


和希が後ろ手に手を振っている。

うれしいって気持ちが背中からでも伝わってくる。


朗「しゃあねえな、今日もふたりで帰るか」

さや「なんかちょっと悔しいよね、和希ひとりだけ幸せになっちゃってさ。

   私も彼氏ほしいよ」

朗「まぁあいつはモテるからなぁ。

  そんなモテるあいつが選んだたったひとりだぜ?本当に大好きなんだよ。
  いっしょに喜んでやれ」

さや「そりゃそうだけどさ…わかってはいるんだよ。でもさぁ」

朗「はいはい、でもは言わなーい。明日の朝には会えるんだからさ。
  本当は彼女といたいかもしれないのに、

  俺たちのことをこんなに大事にしてくれてるんだ。
  それで十分幸せだろ?

  それに俺だってずっとお前と一緒にこうやってバカしてたいって思うけど」

朗「いつかは俺もいなくなっちまうかもしれねえんだよ?

  そこらへんどう思ってるのさ」
さやの目をじっと見て尋ねる

さや「そんなの…そんなの……わかんないよ。

   それにそんなこと考えたくない。だから考えない!」

朗「やっぱりバカだなおまえ。ま、いいけどさ…」

さや「うるさいバカ、朗にだけはバカって言われたくないね!このバカ!!」

朗「はいはい。

  それじゃあ明日の昼休みに今度どこに遊びに行くか3人で考えようぜ。
  さて、何気に短いよな帰り道…。それじゃあ気を付けて帰れよ」
分かれ道を歩いていく朗


さや「大人ぶっちゃって…あの背中蹴っ飛ばしてやりたい!」
そんなことを呟きながら朗の背中を見送った。

さや「ただいまー」
そう言いながらさやは自分の部屋に向かった。

さや「はぁー、今日も疲れたぁ。

   朗が変なこと言うから余計に頭使っちゃったし。ベッド気持ちいい…」
ベッドに寝転がる。

さや「いつまでも変わんないって思ってなにがいけないのよ。

   セピアだってそう思うでしょ?
   セピアですら朝から変わらない体勢で寝てるんだからさ、

   変わらないものがあったっていいじゃない」
とセピアに愚痴る
セピアは耳だけこちらに向け、変わらず寝ている。

さや「まぁ、うだうだ考えたって仕方ないし今日の分の勉強おわらしちゃお」
まったくもってやる気はひとつもないが、

受験生としての危機感と義務感はきちんと感じている。


さや(次の日、いつも通り、いつものハンバーガーショップで、

   いつもの3人でお昼休みを過ごしてた)


さや「今日も暑いねー」

和希「まぁ暑いのはしょうがないよ、夏なんだからさ」

朗「あちーよー」

和希「朗まで。どっちにしろ店のなかは涼しいんだから暑くないだろ」

朗「脳みそとけるー」

さや「脳みそとけたー」

和希「ふたりとも、だから勉強なんてできないとか言うなよ」

さや「和希の真面目優等生…」
嫌味たっぷりに言ってやった

和希「それ普通に褒め言葉なんだから、もっと褒めた感じで言ってくれよ」
そんな脳みそに休息を与えるようにさやが切り出す。

さや「そうだ!どこ遊びにいく!?暑いからどっか涼しいところ!!」

和希「確かに昨日は行くって言ったけど、そんなヒマあるのか?

   お前が一番こんなかじゃ判定危ないんだぞ」

朗「でも毎日毎日、休暇もなく勉強してるんだぜ?!

  世の中には働く社会人にさえお盆休みってものがあるんだ!
  この時期くらい俺たちだって遊んだっていいじゃないか!!」

さや「そうだそうだ、もっと言ってやれ朗ー!!」

和希「わかったわかった、まぁ朗がいうことにも一理あるし。

   じゃあどっか遊びに行こうか」

さや「やったー!!それじゃあどこいこっか。涼しいところでしょ」

朗「涼しい…涼しい…映画とかカラオケとか…」

さや「そんなん夏じゃなくてもいけるでしょ。

   せっかくなんだから夏らしいところ行こうよ。アウトドアな感じでさ」
バカにした目でさやは朗をじっと見る。

和希「あぁ、それじゃあ川なんてどうだ?

   山の方いけば水も冷たいし気持ちいいだろ」
和希が具体的な案を提案してくれた

さや「いいじゃんそれ!!3人でテント立ててさ、

   バーベキューでたくさんお肉焼いてさ、
   私の水着見てふたりとも惚れんなよぉ」

和希「残念、俺は彼女一筋なんだ。惚れてやれなくてゴメンな」

さや「和希が冗談をいうなんて珍しい!もしかして結構たのしみだったり?」

和希「まあな」

朗「け、けどさ!!ほら…ほかのところ考えてみてからでもよくないか?

  夏だからって川だけじゃないだろ」
少し焦ったように朗は言う。

さや「なんで朗はそんな無粋なこというかなぁ。

   せっかくこんなに盛り上がってるのに」

朗「ほら、水族館のほうが魚はよく見れるし、

  遊ぶってんなら遊園地とかさ、花火大会ってのもいいんじゃねえか?」

さや「どれもリア充の巣窟じゃん。

   そんなところには行きたくない。それに和希は、

   そういうところはやっぱ彼女といったほうが楽しいでしょ?」

和希「まぁ、俺は別にさやたちと一緒にいってもたのしいと思うけど…」

朗「ほら、和希もこういってることだしさ、川以外でもよくねえか?」

さや「ダメ、絶対ダメ!!私は川がいいの、もう川で決定!いい?!」

朗「いや…実は俺さ…泳げねえんだ」

さや「嘘つくな!学校のプールで普通に泳いでたじゃん!!

   もう川なの!!決定事項!!」

朗「なんだよそれ!いっつもお前のわがままに俺ら付き合ってんだからさ、
  今回くらい俺の言うこと聞いてくれたっていいだろ!?」

さや「なによ、それ!言うこと聞けなんて言ったことないじゃない!!

   絶対川だからね!!」

朗「くっそ、じゃあいいよ。もう、あとはふたりで相談してくれ。

  俺はもうなんにも言わねえから。
  俺、今日はもう帰るわ」

さや「ちょっと…!!帰るって午後の授業は!?」

朗「さぼる」

さや「さぼるって!?…朗!?!?」
朗は足をとめず、マクドナルドから出ていった。

さや「なんなのよ、あの態度!!むかつくむかつくむかつく!!」

和希「そんなムカついてやんな」

さや「だって、あいつ!ひとが楽しく計画してるのに、あんな風に水差して、

   嘘までついてさ」

和希「まぁ、確かに泳げないってのは嘘だけど」

さや「でしょ!?なんなのよ!」

和希「でも、あいつが今までさやの提案にのっからなかったことって

   あったと思うか?」

さや「そりゃ、朗のことだもん。

   数えらんないくらいたくさんあったんじゃない?」

和希「ないよ。あいつがお前の意見に反対したことなんて」

さや「…そう…だっけ」

和希「そうだよ。だからさ…」

さや「でもさ、だからってあの態度はないんじゃない?!

   いっつも授業は不真面目だし、
   あんなんだからあいつは彼女のひとりもできないんだよ」

和希「なんださや、お前しらなかったのか?
   あいつ顔はそこそこだし、誰にでもやさしいからけっこうモテるんだよ?
   ただ、誰が告白してもいつも断ってるみたいだけど。
   それに、成績に関してもあいつ模試の結果だけで言えば

   俺よりぜんぜん上なんだよ。
   トップクラスの医学部だって狙えるくらいに。
   授業寝てるのは家で半端ない量の勉強をしてるからなんだよな。
   たぶん授業レベルじゃあいつたいして勉強になってないと思う」

さや「は!?何それ!私ぜんぜんそんな話きいたことないんだけど!
   だってあいつそんな素振り一回も見せたことないじゃん!
   それに、それならもっと上のクラスに行けばいいじゃん!」

和希「だからそれはさ…」

さや「それにあいつモテるの!?

   じゃあ今まで彼氏できないって言ってた私を陰で笑ってたのかあいつ!!
   絶対許せない!!!」

和希「別にそういうつもりじゃないと思うけど。
   まぁあいつも隠してたってわけじゃなくて

   言う必要がないって思ってただけだろ」


さや「むかつくむかつくむかつく~」

和希「落ち着け、さや。
   話ずれたけど、あいつがさやの提案を断ってまで

   あんな風に頑なに拒む理由がたぶんあるんだと思う。
   だからさ、とりあえず川以外にしてやろうぜ。
   それこそ俺は水族館も好きだし、花火大会でさやの浴衣ってのもいい」

さや「…まぁ、和希がそういうならそれでいいけどさぁ…あぁもうむかつく」

和希「ありがとな、朗には俺から連絡しとくから心配すんな。
   お前と朗のことだから

   どうせ明日にはけろっといつも通りなんだろうけど。
   たださ、さやももう少しあいつのこと

   ちゃんと見てやってもいいんじゃないか?」

さや「うぅ…」

和希「そろそろ時間だ、俺たちは午後の授業いこうぜ」



さや(和希の言った通りだった。

   次の日には朗はいつも通りで、

   私もそれにつられていつも通りに戻っていた。
   それから1週間、

   いつも通りのくだらなくて楽しい毎日が過ぎていった。)


朗「はぁ今日も授業終わったなー。

  まったくこんな毎日授業じゃあ夏休みだってこと忘れちまいそうだよなー」

さや「だけど、そんな私たちにも夏休みらしいイベントがある!

   水族館!!再来週だよー、楽しみだなぁ」

朗「それにしてもお前が水族館にかえてくれるとは思わなかったよ」

さや「どっかの誰かのわがままでさ!あーぁ、川行きたかったのに」

朗「ははは、さや…ありがとな」

さや「朗…あんた素直にお礼言えたのね!?しょうがないなぁ、ふふふ」

朗「…?和希、どうしたんだ?」

和希「え?」

さや「そうだよ、さっきからずっと黙ってさ」

和希「あぁ…そのことなんだけどさ…すごい言いにくいんだけど

   ……ふたりともゴメン!
   今度の水族館いく日なんだけど、

   彼女がどうしてもその日に用事があるって、
   その日じゃなきゃダメだって。本当に申し訳ない!!

   その日彼女の方に行かせてくれ」

さや「ちょ、ちょっとなにそれ!私たちのほうが先に約束してたの…」
文句を言おうとしさやの口を朗の手が覆った。

朗「気にすんな、彼女にとって…お前にとって大事なことなんだろ?
  俺はお前と友達やってるけど、別にいつもべたべたしてたいわけじゃない。
  むしろ俺はお前の幸せを願ってんだ。

  気にしなくていいからそっち行ってこいよ。」

和希「ありがと…」

朗「ただ、ちゃんと埋め合わせはしろよ」
朗がこんなにやさしく笑うなんて思わなかった。


和希「あぁ!さやも、本当にごめんな」

さや「…」

朗「さや…」

さや「なによ、ふたりばっかり分かり合ってますみたいな顔しちゃってさ。

   これじゃあ私が子どもみたいじゃん」

朗「なんだそれ、みたいなんじゃなくてお前はいつでも子どもだろ」
いつものいたずら笑顔だ。

さや「朗だってこどもじゃない。わさび苦手なくせして…」

朗「おま…!」

和希「まぁ、今回は俺が悪い。

   さやは別に子どもじゃないとおもう…怒るのが普通だよ。
   本当にごめんな、埋め合わせは絶対するから」

さや「絶対だよ!絶対だからね!!」

和希「あぁ、約束だ。それじゃあふたりともまた明日な」

朗「おう」

さや「うん…また明日ね」


帰り道はいつもどおり朗とふたり


朗「さや、お前あんま和希のこと責めんなよ」

さや「別に責めてるわけじゃないよ」

朗「なら、あんま和希を困らせるようなこというな」

さや「わかってるよ…わかってるけど、ちょっと…残念だったから」

朗「あいつは俺らのことすっげぇ大事に思ってくれてんだから。

  だからこそ昼休みだって一緒なわけだし」

さや「朗に言われなくたってわかってるよ。

   たださ、やっぱりわかってはいても寂しいんだよ。
   和希が昔みたいに一緒に遊んでくれなくなって」

朗「そんな俺たちですら太刀打ちできないってくらい、

  あいつは彼女が大事ってことだ。
  そんなあいつの気持ち大切にしてやれ」

さや「わかってるよ。それと、一緒にいる時間が減ったてっのもそうだけど、
   自分に彼氏がいないっていうのを見せつけられてるみたいで…

   ちょっとくやしくて」

朗「毎度毎度さぁ、彼氏彼氏って…そんなに彼氏がいることが偉いのかよ…」

さや「べ、別にそういうわけじゃないけどさ!
   ただ…和希のこと見てたら恋人のいるひとの幸せってのが

   すごいよく見えて、羨ましくて…

   私も誰かと付き合いたいって…好きになってもらいたいなってさ…」

朗「じゃあお前は好きだって言い寄ってくるやつならだれでもいいのかよ」

さや「そうじゃないけど、でも好きになってくれないひととは付き合えないし。
   好きって言われたらそりゃ、好きになちゃうかも…しれないし」

朗「なんだよそりゃ…」

さや「なんだよってなによ!!」


朗がすっと横を、さやの目を見た


朗「なぁ…さや」

さや「ん?」

朗「付き合わねえか」

さや「…」
さやには一瞬朗が何を言っているのかわからなかった。
白目をむいてしまったのではと思うくらい世界が一瞬で真っ白になった。

朗「…ほ、ほら俺って別に不細工なわけでもねえし、
  お前のわがままに付き合ってやれるやつなんてそうそういないし…さ……。

  悪くねえと…思うんだけどよ」
朗がへらへら笑っている。さっきまでさやの目をまっすぐに見ていた目はすっかり地面をとらえている。

さや「…はっ!?バカにしてんの? 私がモテないからって!
   そりゃそうでしょうね、あんたはモテるらしいからね。

   上から目線にもなるでしょうよ!
   でもね、誰でもあんたのこと好きだって思ってるなら

   それは大間違いだから!!
   そんな風にどこか仕方なく言ってやってるみたいな言い方されて

   なびくような女なんてこの世にただ一人もいない!

   朗のバカ!!バカ!!ほんとにバカ!!!」
顔を真っ赤にして、びっくりしすぎて悔しくって思わず涙が出そうだったけど、
それはそれでくやしくてなんとか我慢して、精一杯の言葉をぶつけた。

朗は無表情だった…そしてどこか吹っ切れたように笑った。

朗「あぁ…ごめん、そうだよな。悪かった…悪い冗談だった」

さや「冗談って!」

朗「じゃあまた明日な」
その言葉をいう時にはもういつもの笑顔だった。


帰っている間もさやはずっと困惑していた。

怒っている以上に困って戸惑っていた。


さや「ただいまぁ…」

父「おう、おかえり。なんだ、元気ないなぁ」

さや「なんでもない…」

父「もうすぐご飯だから着替えておけよー…って聞いてるのか?

  まったく、青春ってやつかね」
部屋へあがっていくさや。

さや「ただいま、セピア…はぁ」
ベッドに倒れこみ寝ているセピアのしっぽをいじりながら大きなため息をつく。

さや「あぁもう…むかつくむかつくむかつく!!
   なによ冗談って…そんな大事なこと適当に言うなバカ!

   もう…いい…ご飯食べて寝る…」



次の日、朗はいつもと変わらなかった。
あまりにもいつも通りだった。


朗「おう、さや。今日は寝坊しなかったのな」
昨日のことなんかなかったかのように。

和希「おはよう、さや」

さや「お…おはよぅ…」

朗「なんだよ、その元気のない挨拶は!朝一番の挨拶は大事だぞ」

さや「なんでいつも通りなんだ…」

和希「…ん?さや、なんか言った?」

さや「な、なんでもない!」

さや(そして待っていたのは昨日と打って変わって、なんの変哲も劇的もない、
   いつも当たり前に感じていた普通の日常だった。
   いつもどおりの和希に、いつも通りの朗。

   そしていつもどおりになれない私。
   そんな私を置いてきぼりにして日常は流れていった。)


朗「今日もハンバーガーか…たまにはいいもん食べたいよな」

和希「まぁ、なんてったって俺らは単なる高校生だからな。

   そんな金あるわけないだろ」

朗「わかってるけど、たまには高いものも食べたくなるじゃん。なぁ、さや?」

さや「…」

和希「さや?」

さや「わ、私は別にハンバーガー好きだから!」

朗「…」

和希「まぁ、この値段でこの味、このボリュームは確かにいいよな」

さや「…」

朗「…」

突然、朗の携帯がなった

朗「あ…わりぃ、ちょっと親から電話だわ。すぐ戻ってくる」


朗が席をはずした瞬間和希に言われた。


和希「で…何かあった?」

さや「な、何かって…別に…」

和希「朗に告られた…とか」

さや「…!!」
その瞬間さやの顔が真っ赤に燃え上がった。

さや「な、なんでそんなこと突然…」

朗「だって、さやはわかりやすいからな。

  あぁ、たぶんそうなんだろうなって思いながら見てた」

さや「…わたしってそんなにわかりやすいかな?

   いつも通りにしてたつもりなんだけど!」

和希「ははっ、いつもと全然違うよ。朗と全然目を合わせないし。

   朗のほうがよっぽど上手に隠してたよ」
さやはそういわれた瞬間少し落ち込んだような表情を見せた

さや「それは違うよ、あいつは隠したんじゃなくて…なんにも思ってないだけ。
   本当にさ、適当に告白して…最後には冗談だったなんて言って…。
   私は悪い冗談に付き合わされただけだったんだよ」

和希「ふーん…じゃあやっぱさやが振ったんだ。
   そりゃそうか、あいつもうまく隠してるけど、

   俺からみれば落ち込んでるのバレバレなんだよな」

さや「だぁかぁらぁ、違うんだって。あいつは落ち込んでなんかいないの」

和希「まぁ個人の気持ちを勝手に決めつける気はないから

   どっちだでもいいけどさ。
   …ついでだから一つ聞いてもいいか?

   なんで断ったの?さや、朗のこと好きでしょ?」

さや「…!?!?はぁ!?なんでわたしが!?」

和希「だって、あいつだけに対してはいつも態度が違うだろ。
   遠慮がないというか、言いたいこと言えるというか…
   さやが素直な態度で接してるのってあいつくらいじゃないの?」

さや「ち、ちがうよ!

   …それはあいつがいつも私にバカみたいな接し方してくるから」

和希「それは、さやが自分にだけは

   なんの遠慮もなくものが言えるようにっていう、あいつの優しさだよ。
   あいつ他のひとにはもっと普通だからなぁ」

さや「何それ!?」

和希「あいつなりの精一杯の気遣いだよ」

さや「そんなやさしさ気づくわけないじゃん…!」

和希「だよね、あいつ本当ひねくれてるよ」

さや「そんな、そんなこと…」
さやの顔が真っ赤にかわっていく。

和希「それに、さやはあいつが適当っぽく告ったのにむかついたんだろ?
   あいつが今日何事もなかったかのように

   過ごしていたのにむかついてたんだろ?
   本当にあいつのこと好きじゃなかったなら、

   たぶんほっとするんだと思うよ。
   今まで通りだって、普通に友達としてやっていけるんだって。
   あいつもそう思って、安心させてやりたくて、

   頑張っていつも通りのあいつでいようとしたんじゃないか?
   本当に捻くれたやさしさだけどさ、

   わかってやってもいいんじゃない?そういうやさしさ」

さや「そんなの単なる和希の想像かもしれないし…」

和希「俺が言うのもなんだけど、

   明日俺はお前ら二人との約束を断って彼女のところに行くわけで。
   せっかくだから、ふたりで少し話でもしたらどう?」

さや「…帰る」
顔を真っ赤にしながら急いで帰る準備をする。


和希「午後の授業さぼるのか?いいのかよ、朗ほど成績よくないだろ、さやは」

さや「い、いいの!!!」
足早に去るさや。

和希「あー…帰っちゃった。それにしても、

   あいつ本当に自分の気持ちにすら気づいてなかったんだな。
   確かにちょっとバカかも…。

   まぁそんなところも、さやのかわいいところだけどさ」
足早に帰るさやの後姿が見えなくなるくらいに、

和希はやさしい笑顔でそうつぶやいた。

和希「あーあ…そんな風に自然体で気遣いもなく接し合ってるふたりを見て、
   今まで俺がどれだけ寂しかったことか。
   さやも朗も俺には一線置いてるというか、

   遠慮なくぶつかっては来てくれないからさ。
   彼女がほしいと思った俺の気持ちも、少しは理解してほしいもんだよ

   …まったく」
珍しくそんな皮肉な独り言をいいながらも、

うれしそうな笑顔は崩れることはなかった。


さや「ただいま!!」

父「おかえり…って、今日はまたえらい勢いで部屋に駆け込んだな。

  なんか知らんが、若いなぁわが娘よ」



さや「どうしようどうしようどうしよう…」
どうしようと呟きながら部屋でうろうろうろうろする。

さや「セピア、どうしよう。こんなのぜんぜん予想もしてなかったし…。
   いやでも、予想なんてしてたら私とんでもない自意識過剰女じゃん…。
   あー、でも考えておけばよかった!!うわー、セピアー!!」
静かにしてくれと言わんばかりに、セピアは耳を伏せてしまった。

さや「なんで、こんなことになったんだろ…相談できる相手もいないし…

   私ひとりでどうしろってのさ………」

さや「明日かぁ………あ゛-もう!!よし、決めた!
   ひとりで無理ならふたりで考えればいいんだ!!
   もとはといえばあいつのせいなんだし、あいつに考えさせる!

   うん、明日話そう!!」
鞄とともにどっかに放り投げた携帯を探す。

さや「携帯…あったあった、よし『明日はなそう』っと」
そうメールに打ち込んだが、なかなか送信ボタンが押せない。

さや「ふぅ…なんでこんな緊張するんだ私。なんでもないこれくらい。
   そうだよ、どこに遊びに行くかを話し合うのと同じだ!
   大した話するわけじゃない…

   う…う、うわああああああああああああああああああああ

   ………送っちゃった」
目一杯叫びながら送信ボタンを押した。


さや「………うわ!?もう返信きた!!『明日、丘の公園で』か。

   …よし考えてもしょうがない!!明日を待とう!」



丘の公園に、さやが着いた時にはもう朗はいた。
朗「よ、公園で話すなんて久しぶりだな。

  二人で話すのなんて、いつもは帰り道ばっかだからさぁ」

さや「うん、そうだね…」

朗「ここの公園には結構思い出がたくさんあってさ。

  あのブランコけっこう乗ったんだぜ?」

さや「私も小さい頃、あのブランコすごい好きだった。

   …でね、朗…話なんだけど」

朗「あ…あぁ、うん…わかってる、だから俺に先に話させてくれないか」
朗の顔から一瞬にして幼い表情も笑顔もどこかに去ってしまった。

さや「先に?」

朗「こんにちは、さやちゃん。
  いつも君が見せる笑顔は暖かくて、

  君がいるだけでこの世界は明るくなって、

  どんどんとカラフルに彩られていく。
  あまりにも奇麗なこの世界を君が愛しているように、

  僕もこの世界を、君とおなじ景色を見てみたい」

さや「…朗?なんで…」
なんで朗がその文章をしっているのか。
さやはまったく意味がわからず、ぽかんとした顔を浮かべていた。
そしてこんどは頭のなかがぐるぐるして

困惑した表情をあからさまに浮かべていた。

朗「この手紙、さやもらっただろ?小さいときに。
  実は俺の兄貴が書いたんだよ。当時小学生だってのにすげえよな。
  親戚のおじさんに頼んで一緒に書いてもらったらしいけど」

さや「お兄さんって…」

朗「おまえんち猫がいるだろ?昔、兄貴はあの猫とよく遊んでたんだよ」

さや「たしかにセピアは今こそ年取ってずっとベッドの上にいるけど、

   昔は普通に外で遊んでた…。でも、なんでうちの猫だって?」

朗「その猫の家がどこかって、昔探しにいったことがあったんだよ。
  で、行きついた家で見かけたのがお前だったってわけ。
  うちの兄貴はけっこう人見知りだったからさ、

  庭で猫とじゃれてたお前を見ても、
  別に話しかけたりとかはしなかったんだよ。

  いや、ちゃんというとできなかったんだな。
  でも、偶然お前がこの高台の公園でブランコにのってるのを見かけたとき、

  がんばって話しかけようとしたんだ。
  俺もそん時は一緒だったからさ。

  兄貴がすげえ落ち着きなくうろうろしてたの覚えてるよ」
とても幸せそうな笑顔を浮かべている

さや「じゃあ小さい頃、この公園で会ってたの!?」

朗「あぁ。まぁ、会ったってほどじゃないけどな。
  その時は、普段は人見知りな兄貴が勇気をだして話しかけようと

  頑張ったんだ。そしたらお前に」


さや(幼)「あ!ブランコのりたかった?!ごめんね!!」


朗「って言われて、ブランコをかわってもらっちゃってさ。
  本当は話しかけたかっただけなのに、

  お前が勘違いするからもう話しかけられなくなっちゃって。

  なっさけないよなー」
朗は幸せそうだった…けど、もっとずっと寂しそうな笑顔なことに気が付いた。

朗「それでも結構自慢の兄貴だったんだ、将来は医者になるんだとか言ってて」

さや「兄貴…だった…?」

朗「うん、だった。死んじゃったんだよ、

  そんな風にお前に話しかけられないでいる間に…。
  兄貴、やさしくてさ、弟の俺の面倒はすごいよくみてくれてたんだ。
  でも運動はチビの俺の方ができてさ…でもまぁ、自慢の兄貴だったんだ」

さや「死んじゃったってどうして!?」

朗「ちょうど今ぐらい暑かったときだと思う、川にさ、川にいったんだ…。
  台風の次の日で、兄貴と川がどんなふうになってるか

  見に行こうって言って。
  まだ曇ってはいたけど、もう雨は上がってたし、

  危なくないって思ったんだ」

さや「川…」

朗「うわー、すっごい水の量だね!!水茶色いねー!!

  そんなことを言いながら川を眺めてたんだ。
  橋の上から眺めながら、すごいすごいってなんども言って、

  いろんなものが上流から流れてきて、
  こわいって言うよりも、それひとつひとつになんか感動してさ…」
もう幸せそうな顔は溶けて消えてしまった。そこには寂しさだけが残っていた。

朗「だけど、やっぱり感動なんてのは、場違いな感情だってすぐ気づいた

  …気づかされたんだ。
  木や自転車とかゴミとかそういうものにまぎれて、

  やけに動くものが目に留まったんだ。
  猫が一匹、流れてきたんだ」

さや「もしかしてその猫を?」

朗「あぁ。今だったら絶対止めてたのに」

朗「もしかして…って呟いて兄貴は、俺が止める間もなく川に飛び込んでたよ。
  その猫、いつも遊んでたあの猫に似てたんだ。
  ガキなのに、運動なんてぜんぜんできなくて、

  泳ぎは年下の俺より下手なのにさ、
  力なく水をたたきながら必死に泳いで。

  …でも、それでもその猫のとこには、なんとかたどり着いたんだ。
  小学生のガキにしては精一杯頑張ったと思うよ。
  それで近くの岩の上に載せてあげて…兄貴も必死にその岩につかまってた」

さや「その猫ってもしかしてセピア!?」

朗「いや、違ったよ。さやんちの猫じゃなかった。

  それがわかった瞬間、兄貴もすげえほっとした顔をしてたよ。
  自分は今にも溺れそうだってのに…笑えないよ、本当」

さや「じゃあ、お兄さんはぜんぜん知らない猫を助けたってこと…」

朗「あぁ、そうなるな。バカだよなぁ…兄貴らしいよ本当。
  でもさ、兄貴はたぶんぜんぜん似てない猫だったとしても…
  いや、もっと言えば犬だろうが狐だろうがたぬきだろうが、

  同じ状況だったらたぶんおんなじことしたと思う。
  なのに俺はさ…俺は…」

さや「朗…?」

朗「俺はなにもできなかった。

  俺の方が泳ぎはうまかったのに、俺は飛び込めなかったんだ…。
  猫を助けにいくことも………兄貴をさ…助けにいくことも

  …できなかったんだ」
血が出るんじゃないかというくらい歯を食いしばった。悔しさよりも後悔よりも、本当に自分をかみ殺してしまいたい。
そう思っているのが否応なしに伝わってくる。


朗「俺は大人を呼びに行くから待ってて!

  ってそれだけ言って、大人を探しに走り出したんだ…。
  だけど、本当はこわくてこわくて…。
  自分が飛び込む勇気がないだけで、

  ただただ走ってその場から逃げ出したかったんだ。
  いや、たぶん何もできない自分から逃げ出したかったんだ」
涙がぽたりぽたりと静かに落ちた。朗自身気付いてはいないのかもしれないくらい、そっと静かに。

朗「ようやく大人を見つけて戻ってきたときにはもう遅かった…」

さや「でもさ、でもそれは間違ってなかったんじゃ…
   だってそこで朗まで飛び込んでたら二人とも死んじゃったかも

   しれないわけでしょ!?」

朗「それでも…今でも兄貴のあの笑顔が離れないんだ。
  きっと自分が死ぬだなんて想像もしてなかったんだと思う。
  俺が助けてくれるはずだって…なのに…なのに俺」

さや「それは…それはだって…」

朗「俺なんかよりもよっぽど強くて…!

  俺なんかよりぜんぜん頭がよくて…俺なんかよりもすっげえ立派で…
  どうして死んだのは兄貴なんだ…兄貴じゃなくて…」

さや「朗!!!それ以上言ったら怒るよ!!」
さやは思わず叫んだ。きっと続く言葉はこの世の誰も望まない。
いや、あの世のお兄さんですら望まない言葉が待っている気がした。

朗「…ゴメン。だけど…だから、俺は兄貴のように生きるって決めたんだ。
  兄貴がやろうとしたことは全部俺がやる。

  兄貴が願ってた願いは全部俺が叶えてやるんだって。
  兄貴のために死ねなかった俺には兄貴の代わりに生きることしか

  できないから…。
  お袋や親父は、それでもお前の人生は誰かの代わりの人生なんかじゃない、
  自分の人生を生きろって言ってくれてるけど、
  それでも親父たちが俺のなかに兄貴をみてるときが

  あるのにも気づいてたから」
幸せ、寂しさ、口惜しさ…次にその顔に現れたのは決意だった。

朗「だからとりあえずは医者になりたくって勉強もがんばった。

  医者になりたいって、確かに兄貴は言ってたから」

さや「もしかして川に行くのを嫌がったのって、やっぱり…」

朗「あぁ…いまだに怖いんだ…川行くのは。
  また何かあったとき、俺は助けにも行けないんじゃないかと思うと。
  なっさけないって自分でも思うよ」

さや「なんで言ってくれなかったの!?」

朗「言ったらさや、  絶対今みたいにつらそうな顔するだろ?

  別にそんな顔させたいわけじゃかったから」

さや「そんなこと気にしなくていいよ!!」

朗「そっか、ありがと……でさ、こっからが本題」

さや「本題…?」

朗「うん、本題。だからさ、高校でお前に会った時はすげえびっくりしたんだ」

さや「びっくりした?」

朗「兄貴が好きだった女の子がいるって、びっくりした」

さや「よく私がその子だって…気づいたね…」

朗「まぁな。狭い町だし、何回か見かけたりとかはしてたんだよ…」

さや「見られてたのか…」

朗「それに、やっぱりお前は俺のなかでも特別だったんだよ。
  あの兄貴をもじもじさせた唯一の子だったからな。
  高校で見かけたときは…あぁこれはもう

  兄貴が友達になれって言ってんのかなって本気で思ったよ…」
さやはこの後につづく言葉を聞きたくないと、言わないで欲しいと思った。

朗「お前に付き合いたいって言ったのも、

  きっと兄貴だったらそうしてただろうって思ったからなんだ…」

さや「それじゃあ朗の気持ちは…!」

朗「いや、友達になったのも…もしかしたら兄貴のかわりなのかな…やっぱ」

さや「…なんでそれを私に話したの?」

朗「なんでだろ。自分でもよくわかんない」

さや「そんなこと言われたら……」

朗「ごめんな」

さや「…謝るくらいなら…謝るくらいなら最初っからすんな!

   期待させんな!!バカ!!」
そう言い終わると涙をわっと溢れさせて、走り出した。

朗「さや!!……行っちまった。本当になんで俺はこんな話をしたんだろ。

  さやが泣くことなんてわかってたのに」


朗と別れたあと、夕暮れの帰り道。さやの眼はもう涙でいっぱいだった。


さや「せっかく、せっかく好きだってわかったのに。

   自分の気持ちにようやく気付いたのに…」




さや「朗の…朗のバカーーーーー!!うわあああああああああああ」
帰り道、誰もいない道で大声をあげて



さや(それから3日がたったが、いまだに気持ちの整理はつかないでいた)


さや「あれから、朗の顔すら見てない…」

さや「なんであの時、私はなにも言えなかったんだろう…

   あんな顔の朗ひとり残して…。
   好きだって…朗に好きだっていいに行くはずだったのに

   …結局なにも言わずに」

さや「和希に相談しようかな…

   あー、でもなんて言えばいいのかわかんないよ…。

   いいや、もう夜だし、明日考えよ」


ピロリロン。
メールがきた。


さや「ん?メール?……もしかして…朗…かな」

さや「…嫌だよ…こわいよ…いやだ…いやだいやだいやだ!!

   これ以上傷つきたくないよ!!!」
またそっと涙が瞼から涙が這い出てきた
握りしめた携帯を投げ出したい。


さや「でも…見ないわけにはいかないよね」


さやは大きく息をすった。
そして目を精一杯開いて携帯の画面を見た。


さや「え…!?どういうこと…!?!?…と、とりあえずいかなきゃ!!」

父「さや?もう夜だぞ!?どこいくんだ…って行っちゃったよ

  …まったくうちの娘は元気でいい。
  何があるのか知らんが、終わったら電話くらい入れるんだぞ、まったく」



さや(予想外だった。予想外すぎた…冗談だと思いたかった。
   私は何もかも忘れて走った。
   頭の中は真っ白で、靴が左右でちがうことも気づいたけど

   気になんかしていられなかった。
   無我夢中で、とりあえず早く着くことだけを考えた。)



さや「はぁはぁ…」


さや(心臓は破裂しそうなほどバクバク言ってるし、

   足もちぎれるんじゃないかと思った。
   だけど、破裂してもいいから、足もちぎれていいから、

   はやく…はやく…そう思って必死に走った。)



さや「はぁ…はぁ…はぁ…和希!…何があったの!!……あきら…あきらは!
   …あぁ!もっと速く動け私の脚!!うわあああああああああああああ」


さや(病院の待合室に駆け込んだ。和希がすでにいた。)


さや「はぁ…はぁ…和希!!どうしたの!?何があったの!?!?

   ねぇ!朗は!!!」

和希「え!?さや…?」
和希は驚いた顔をしてこちらを見ている。

さや「朗は大丈夫なの!?」

和希「あ、さや!お前もしかして2通目のメールみてないのか!?」

さや「え、2通目!?」
さやはメールが来ていることにまったく気づいていなかった。
メールには和希から2件目が来てる。

さや「これって…じゃあ、朗は無事なの!?!?」

和希「あぁ、大丈夫だ。あいつはぴんぴんしてるよ」

さや「よかった…よかったよぉ……」
気が抜けてへたりこんだまま、一瞬なにも考えられなかった。

さや「朗…」
唐突に、この場に朗がいないことに気が付いて周りを見渡すが、

やっぱり朗の姿はない。

さや「和希!朗はどこ!?」

和希「え、朗?朗なら外の空気を吸いに行くって出てったけど、

   でもあいつはどこもケガとかしてないから大丈夫だよ…」

さや「男の子!!男の子のほうはどうなの!?!?」

和希「あぁ…男の子は助かるかどうかわからないって、

   さっき朗がお医者さんに言われてるのを聞いたよ」

さや「そんな…」

和希「あ、あぁ…でもきっと大丈夫…ってさや?」
さやは和希の言葉を最後まで聞かずに再び走り出した。


さや(最初に和希からきたメールは

   「朗が川で溺れて救急車で病院に担ぎ込まれた」というものだった。
   そして、今見た2通目は1通目の訂正で、

   担ぎ込まれたのは朗じゃなくて、
   朗がが溺れているところを助けた少年だったいうこと、
   だけどその少年の心臓は今にも止まりそうで危ない状態だ

   というメールだった。)

さや「外の空気吸いに行くって、どこ行ったのよ…あぁもう!!

   こんなの、ぜんぜん大丈夫じゃないに決まってんじゃん!!」


さや(どこにいるのか正直見当もつかなかったけれど、

   とりあえず探さずにはいられなかった。)


和希「まったくあいつらは…人の気も知らないで。

   いつも俺ばかり置いてきぼり食うんだから。
   ふたりがさんざんふざけ合ってるなかで、

   俺一人世話焼きポジションで混ざれなくて…寂しいんだよ、これでも」
たった一人、待合室でぼやく和希。

和希「まぁ、だからと言って俺があの二人の間に入ったところで、
   恋しちゃってる二人の邪魔にしかならないのはわかってるんだけどな。
   俺はおまえらふたり、どっちも大好きなんだよバーカ。
   だからふたりとももう少し俺に構えよ。
   今だって結局いい人ぶってさ、

   関係ないのにこの子の家族を待ってるんだから、損な役回りだよなぁ…。
   ふたりのために待ってやってるんだから

   …そろそろ決着つけてさっさといい感じになって帰ってこいよ」

和希「………あーもう!よし、俺だって彼女に電話してやる!!
   あと、今度遊びに行くときは俺の彼女も絶対つれてくからな!!」


さやは夜の街を今もまだ走っていた。
朗の姿どころか影すらいまだ見つけることができなかった。


さや「ったく!どこにいるのよバカ朗!!

   …これだけ探してるっていうのに!……もしかして」


さや(もう思いつくところは、そこだけだった。

   そこにいなかったならさやにはもう探すあてなどなくなってしまう。)


さや「大丈夫…きっといる。あの…場所に…」



さや(全力で走ってきて、はぁはぁと息を切らせながら肩を揺らしながら、

   高台の公園の入り口の入り口に立った。
   ブランコに座りながら朗は空を見上げぼーっとしていた。)


さや「朗…!!」


朗「ん…おぅ、さやか。…ははっ、お前左右の靴ちがってるぞ」
口調はいつもと同じだったけど、

でもさすがにいつもみたいな笑顔は作れていなかった。

さや「バカっ!あんたのせいでどれだけ走ったと思ってんのよ!」

朗「おぉ、なんだよいきなり。別に俺はなんともないし、

  心配しなくても大丈夫だよ」
そんな返事をしつつも朗は目を合わせようとしない。

さや「大丈夫なら…大丈夫ならなんで待合室にいないのよ!」

朗「はは……そうだよな、ゴメンな。大丈夫っていうのは嘘だ。

  あそこで待ってられるほど俺は強くなかった」

さや「…」

朗「あの子のこと助けてあげられなかった」

さや「まだ助からないって決まったわかじゃないじゃん!!」

朗「でも、救急車にのってる間もどんどん心臓が弱くなってって…

  一回止まったんだぜ」

さや「でもまだ治療してる!!きっとまた元気になる!!」

朗「兄貴だったら、ちゃんと助けてあげられたのかな…」

さや「そんなの…そんなのわかんないよ…」

朗「もう俺にできることなんてなにひとつもなくてさ。
  あそこにいても待つことしかできなくて、

  いてもたってもいられなくって…また逃げてきたんだ。
  で、この公園で考えてたんだ。
  もし兄貴が生きてたらどうなってたんだろうって…」

さや「…」

朗「医者になろうなんて思わなかったと思うし、

  今も兄貴にくっついて頼ってばっかだったのかなとか。
  あとは、子どもは兄貴に助けられて、

  きっと今頃家でおいしい夕飯を食べてたんだと思う」

さや「大丈夫だよ!ちゃんと明日にはおいしいご飯食べてるよ」

朗「さやのことも、兄貴ならきっとさやのことを幸せにできたと思う。
  俺と違ってやさしかったし、強いひとだったから。
  だけど、気付いたんだ。
  俺もさやのことが好きだったんだ…兄貴のかわりとかじゃなくて。
  もちろん俺が好きになったのは

  兄貴が好きになったぜんぜんあとのことだけど。
  俺が好きになったのは高校はいってお前と友達になったあとだけど…。
  それでも、もし兄貴が生きていても、

  例え兄貴がさやの彼氏になってたとしても、俺はさやが好きになってた」

さや「なら…!?」

朗「でも、俺は兄貴の代わりになるって決めたんだ!

  俺じゃなくて、兄貴として付き合わなきゃって…なのに…なのに」

さや「ねえ、聞いて…」
そう呟くさやの声も朗には届いていないようだった。


朗「お前に付き合わないかっていったとき

  『そんな仕方ない感じで言われたって…』って言ってたよな。
  嫌だったんだ、さやのことだけは兄貴の代わりっていう立場が

  …どうしても。
  本当は出会ったときに思ってたんだ。

  お前のこと好きになっちゃだめだって…こんな風に絶対つらくなるから」

さや「ねえ!!」

朗「でも、俺はなにも成長してなかった…子供の頃から何一つ。
  兄貴のことを助けられなかった俺のまんまなんだ。
  そんな俺が兄貴にできなかったことができるわけがないよな。
  お前に好きになってもらおうなんて。

  もし、本当に兄貴が生きてたらきっと今日あの子は助かった。
  …それに、きっとさやのことも幸せにしてやって…」

さや「そんなことない!?」

朗「あるよ!!俺じゃあ誰一人救えないし…さやのことだって…」

さや「そんなの関係ない!

   だって私はお兄さんのことじゃなくて朗のことが…!!!…で、電話?」
言いかけたときさやの電話が夜の公園に響いた。

さや「和希…」
携帯画面をみて和希からの電話であることがわかった。

通話ボタンを押す手が緊張で汗ばんでるのがわかった。

さや「もしもし、和希?うん、今一緒にいる…本当に?

   う、うん…ごめん…うん、わかった。またあとでね」

朗「和希からか?あいつにも申し訳ねえことしたな。
  ひとり残して……でも、俺がいたってどうしようもないし、

  あの子の親がきたらどんな顔すればいいかわかんねえし…。
  つくづくなんもできねえんだな俺って…誰かに頼ってばっかで…。
  兄貴にすがってたあの時となんもかわらないで…

  ……さや?なんで泣いて…」

さや「バカ!本当にバカ!

   あんたが助けたあの子……ちゃんと…ちゃんと助かったって…。
   今、ちゃんと意識も回復したって…

   だから待合室にいろって言ったじゃない!!」
さやの目からはもうぼろぼろと涙がとめどなく流れていた。

立っていることもできず、その場に座り込んでしまった。
なんで泣いてるのかはさや自身にもよくわかってなかった。
でも、きっとこれは朗のために流れてる涙だってことはなんとなくわかった。

朗「え……助かったって…だって心臓が止まったって…」
いまだに信じきれないのか、目をまん丸にしてすがるようにさやに答えを求めた。

さや「結構あぶなかったみたいだけど。でも、でもちゃんとそのあと生き返ったって…」


朗は頭の整理がついていないようで、しばらく目を丸くしたまま止まっていた。


朗「本当か?…さや…本当に本当か!?」

さや「本当だよ」

朗「俺はちゃんと助けられたのか!?…ちゃんと…あの頃とは違って……」

さや「そうだよ、あの頃とはちがってちゃんと助けられたんだよ…」

朗の目からもどんどんと涙があふれてきた。

朗「よかった…よかったよ、さや。わあああああああああ」
朗は我慢することもなく、人目を…さやの目を気にすることもなく大声で、
さやよりももっとたくさんの涙をぼろぼろとこぼした。

朗「本当に、本当にすっげえこわかったんだ。
  あの子を川で見た瞬間に兄貴のこと思い出して

  …あの時からずっと後悔してて、
  飛び込めなかったこと…今回は…今回は助けられたと思ったのに

  …結局ダメったんじゃないかって…。
  …俺は…俺はまた助けられなかったんじゃないかって

  …怖くて…怖くて……」
涙は一向に止まる気配すらない。

さや「あぁもう、あんたのために今日どれだけ走ったと思ってるのよ

   …携帯くらいもってけバカ」

朗「はは、ごめんな。そんな一生懸命走ってくれたんだな」

さや「あと一回だけ…あと一回だけ走る」

朗「え…?」

さや「今から飛びつくからちゃんと受け止めてよ」

さや(そう言うと、私は朗に向って走った。そして朗の胸に飛び込んだ。
   朗がブランコからおちても気にせずその胸に顔をうずめて、

   力いっぱい抱きしめた)

朗「いたたた…どうしたさや?」
朗はびっくりして涙も止まってしまった。

さや「私のことが好き!?」

朗「は…?」
朗はびっくりして「は?」と返すしかできなかった。

さや「好きかって聞いてんの!!」

朗「好きかって、いきなりどうしたんだよ」

さや「好きなの!?」

朗「………あぁ、好きだよ!大好きだよ!!」
朗も自分の胸にうずまっている小さな頭をやさしく、強く抱きしめた。
壊したくないけど、壊れるほど抱きしめてしまいたい。
離したくないけど、これでもかというくらいやさしく抱きしめたい。

さや「私もあんたのことが好き!!この世でだれよりもあんたのことが好き!!

   んーん、あの世を含めてもあんたが一番好き!
   あの素敵な手紙があんたのお兄さんだったとしても、そんなの関係ない!

   私は朗のことが大好きなの!!」
朗は、自分の胸が水でにじむ感触に気づいていた。
そして、そこからどんどんとあったかさが自分の体中に広がっていくのも感じていた。

さや「それに朗はもう小さい頃の朗じゃない!
   たくさんがんばって、たくさん成長して、今度はちゃんと助けられた!!
   あの時のお兄さんにも負けないくらい立派に成長した!!
   んーん、あの時のお兄さんは猫は助けられたけど、

   自分のことは助けてあげられなかった!!
   でも、あんたは違う!

   あの子のことも、自分のこともちゃんと助けてあげられた!!
   だから…だから、あんたのほうがお兄さんよりもすごいよ!!」
どんどんと朗の体は温かくなっていく。

朗「まったく…どういう理屈だよ」
ようやく朗の顔から涙じゃなくて笑顔がこぼれた。

さや「理屈なんかいらないの!私がそう決めたんだから」


さや「今幸せ?私に好きって言われて、抱きつかれて幸せ?」
朗は力いっぱい抱き寄せた。壊れてしまうかもしれない…。
だけど、もっと自分の心に近づけたくて、

もっともっとその温もりがほしくてに力の限り抱きしめた。

朗「あぁ、今度は幸せすぎて涙が出てきたよ」
朗は笑顔だったがその目からはまたあったかい涙があふれてほほを伝い

さやの背中にまでつたっていた。



さや「知ってる…だって朗の心臓すごいドキドキ鳴ってるんだもん…

   こっちまで聞こえてんのよ、バカ」

朗「なんだよお前だってドキドキしてるの伝わってるぞ、アホ」

さや「私はさ…お兄さんのじゃない。あんたの心臓の音をもっと聞いていたい」

朗「うん…」

さや「だからこれからも、ちゃんと朗として生きて…」

朗「うん…」

さや「…一生ドキドキさせてやるんだから」




さや(数週間後、溺れていた少年もすっかりよくなって、

   私たちは受験生ながら残り少ない夏休みを楽しんでいた。
   今日は、私、朗、和希と和希の彼女も併せて、

   このあいだの和希が約束を反故した埋め合わせに来ていた。)


さや「和希、ちゃんとお肉は買ってきた?」

朗「和希、はやくテント立てろよー」

さや「和希、このビーチボールふくらませてー」

さやと朗はここぞとばかりに和希にあれこれと仕事を押し付けた。



和希「お前ら、さすがにちょっとくらい手伝ってくれ…」


さや「何言ってんの!

   この間の約束破った埋め合わせなんだからこれくらい当然よ!」

朗「それに彼女がかわいい!!爆ぜろ!!」

さや「朗…殴られたい?」

朗「わ!!バカ冗談…!!!いってなぁもう…」

和希「そうなんだよなぁ、俺の彼女かわいいんだよ」

朗「うっさい、のろけんなバカ!!」



さや「ところで朗、川でよかったの?大丈夫?」

朗「んー…もう大丈夫かな。もし、だれかが溺れても俺が助けるから」

さや「言うようになったね」

朗「なんてったって、兄貴よりもすごい認定もらったからな」

さや「怖かったら、手をつないであげようか?」

朗「ん?しょうがねえな、さやが溺れないように手つないでおいてやるよ」
ふたりはそっと手は重ねた。
二人のトクントクンという音がどんどんと重なっていく。

さや「またドキドキしてるでしょ」

朗「さやの水着姿みて惚れたのかな、もしかして」

さや「ふふ、バーカ」

朗「アーホ、ははっ」



和希「おーい、本当に手伝ってくれよー!!」

朗「しょうがねえなぁ」
さや「しょうがないなぁ」
口をそろえて、笑顔で和希のもとに駆け寄る。



さや(あの日、たった一瞬だったかもしれないけど、

   確かに朗と朗のお兄さんとあの公園で同じ時間を過ごした。
   でも、もう私はその時のことを思い出すことはできない。
   だけど、今のこの瞬間はきっと一生忘れることができない夏になる。
   私たちは今間違いなく忘れもしない夏を過ごしているんだ)