空の色とモザイク

 

レンガ造りの港町、

 

男の子がひとり大きな荷物をその小さな両手に抱えて歩く。

 

 

 

 

男の子の前には男がひとり、派手な衣装に気障なくるりと回るひげをたくわえて、

 

 

 

「さっさと歩け。誰が金を払ってると思うんだ」

 

 

と、マメなど知らないといった、癪にさわるほどきれいな手で指をさす。

 

 

 

 

男の子はうつむいたまま、少し早足になった。

 

 

 

ふと顔をあげるとそこには大柄な男が立ち止っていた。

 

 

どんっ!!

 

 

 

とぶつかり、男の子はお尻からストンと地面に座り込んでしまった。

 

 

荷物の中身が散らばっているのが見える。

やってしまったと後悔の念が顔にあらわれている。

 

 

 

 

「###***#**#***!!」

 

 

 

ひげの男が顔を真っ赤にして大声で叫んでいる。

 

 

「少し落としただけじゃないか、拾えば済むことなのに」

小さな声でぼそっと呟いた。

 

 

何を言ったかまでは聞こえていなかっただろうが、男の子がどんな気持ちなのかはその態度からわかったらしい。

 

 

「オマエノカワリナンテダレデモイインダゾ!」

 

 

 

男がそのセリフが言い終わる頃には、男の子の顔が明らかに紅く変わっていった。

 

 

男の子は今にもとびかかりそうな容貌でひげの男を睨みつける。

 

 

 

少したじろいだ男を無視して、背中を向けて男の子は走り出した。

 

その顔はまだ真っ赤だが、大きな涙で頬が少しだけ冷めたかった。

 

 

 

そんなことがあった日から、幾ばくかの月日がたった森の中の静かな町

 

 

男の子は母親ほどの年の人と歩いている。

 

 

 

 

男の子は何ともいい笑顔であり、

 

女性もまた慈しんだきれいな笑顔である。

 

女性の反対側の手にはもうひとり男の子がいた。

その子もまたとてもいい笑顔で3人で仲良く笑っていた。

 

 

 

「ふたりを引き取って本当によかったわ。今の笑顔は3人で作り上げた私の大事なたからものよ」

 

そんな言葉が男の子にとってはとても印象的だった。もっと言えば単純にとてもうれしかったのだ。

そんな照れた笑顔でもうひとりの男の子をみると、その子も同じような照れ笑いでこちらを見ていた。

 

 

3人はいつも幸せそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

そんな折、女性のもとに男性がひとり駆けてきた。大変な焦りようだが、とても辛そうな顔をしている。

 

 

男から話を聞いた女性の顔はみるみると血の気が引いていくのがわかった。

 

 

一緒に聞いていた男の子も茫然とした顔で立ちつくしているようだった。

 

 

もう一人の男の子が死んだと。

 

 

突然の訃報に崩れ落ちる女性。

 

どれだけ人の中にそれだけの水があったのかと思うほど女性は何日も泣き続けた。

男の子は自分が泣きたいのもこらえて必死になぐさめた。

 

 

 

それからの生活は、正直男の子には辛かった。

なんとか泣き止んだ女性もその喪失感からはまったく抜け出せていない。

 

いつもどこか遠くをみて、抜け殻のように過ごす時間が多かった。

 

 

僕を見て。

そんな言葉をなんども吐き出しそうになりながら、いつも寸でのところで飲み込んだ。

 

 

 

 

「あの子だったらこんなことはしなかったわ」

 

「あの子のようになりなさい」

 

 

「なんであの子のようにできないの」

 

 

 

いつのまにかそんなことを言われることが増えていった

 

女性のことが大好きだった男の子だが、だんだんと顔をうなだれるようになり、

 

 

下ばかりを眺める生活で空が青いことにすら気付かないようになっていった。

 

 

 

 

男の子はふと夜中に目を覚ました。

 

 

 

 

女性はテーブルに突っ伏して眠っていた。

 

 

 

涙の跡が顔を横切って、テーブルまでつながっていた。

 

 

 

毛布をかけ、小さな声でおやすみと声をかけた。

 

 

 

 

 

 

「アノコノカワリニスラナレナイノ…」

 

 

 

 

男の子の目から光が一瞬にして消えていた。

 

 

女性が放ったのは寝言なのはわかった。

 

だけど、だからこそ、彼女の本心を突き付けられたようだ。

 

 

 

男の子の顔は真っ青になり、よたよたと歩きだした。

 

 

 

 

表情は変わらないまま、まぶたの上にはとっくに容積を越した涙がのぞいている。

 

 

 

歩いていたのが、早足になって、しだいには駆けだしていた。

 

 

 

「今度はどこまで走ればいいんだろう。どこまで走れば僕の居場所があるんだ」

 

 

男の子は当てもなくどこまでもどこまでも走った。

 

疲れて走れなくなっても歩き続けた。

何日も何日も、どちらに行くのが正解で何を選ぶのが正しいのかまったくわからないなか、それでもがんばって歩き続けた。

 

 

 

 

 

ネオンが濃く、人が多くて機械油のにおいがする

そんな雑多な街。霧がとても深い。

 

 

 

そんな機械と霧の街に少年は一人でいた。

 

 

 

多くの人間が行きかう店街。

 

 

 

男の子には誰もかれもが同じに見えた。

濃い霧のせいか、男の子の目には道行く人の顔はモザイクがかかったようで区別はつかなかったのだ。

 

 

 

店の裏のごみ箱に男の子は手を伸ばした。

 

 

 

 

あたりを見回す。

 

 

すると背後から「こんばんは」

 

 

 

 

驚いて振り向くと、そこには同じ様な年の女の子。

 

 

 

 

 

男の子の目には依然モザイクがかかっていて誰なのかはよくわからなかった。

 

 

だけど、少年にはもとよりこの街に知り合いと呼べるほどの人間はいなかった。

 

 

 

 

男の子は急いで、食料を調達して走り出した。

 

 

 

女の子も追いかけてきているようだったが、そのうち見えなくなった。

 

 

 

「あの子、何を話そうとしたんだろ…でもまぁいっか。きっとそれは僕に対してじゃなくてもよかったんだろう」

 

 

 

 

次の日別の場所で食料を調達しようとすると。女の子が歩いてきた。

 

 

顔はわからないが、どうやら昨日の子らしい。

 

 

 

右手にはパン、左手にはハムが握られていた。

 

 

 

 

その両方を男の子に差し出した。

 

 

 

男の子はわけがわからず問いかけた。

 

 

 

「何でこれを僕に?」

 

 

 

 

女の子は少し考えた後に

 

 

「あなたとなら一緒にこの街で生きていけると思ったから。えっと、少し違うかも。あなたと一緒に生きていきたいと思ったから…かな」

 

 

 

男の子の目は生気がないまま

「なんで僕なのかわからない。もっと生きることが上手で、もっと魅力のある人がいいよ。僕は替えが利くような人間だ」

 

 

 

 

 

女の子は少し考えて笑顔になった。

「ふふ、そんなことを考えてる人にわたしは初めてであったわ。

それだけであなたは十分特別だと思うけど」

 

「私ね、この街では誰もかれもがおんなじ顔にしか見えないの。

でもね、あなたの顔だけはわたしにははっきり見えるの。

昨日あなたを見たときはびっくりしたわ。なんでこの人だけこんなにはっきりと顔が見えるのだろうって。

あなたにっとってわたしの替わりはいるのかもしれない、でもあなたの替わりはわたしにはいないわ」

 

 

 

 

男の子はすくっと立ち上がった。

 

女の子の手を引いて、ぐんぐんと速く走った。

 

 

 

 

建物に入って、階段をすごい勢いで昇っていく。

 

 

 

女の子は戸惑っていたが、手をつないでいることに気づいてちょっと照れくさそうな表情をしたかと思えばすぐに笑顔になって、今度はわくわくとした表情をしている。

 

 

女の子がそんなひとり百面相をしていることにも気づかず、男の子はどんどんと階段を駆け上っていく

 

 

 

男の子たちは階段を昇りきり、ドアをあけた。

 

 

 

 

そこは暗い街もモザイクのような霧もはるか下の塔のてっぺんだった。

 

 

 

少年は青い空を久々に見た。

 

 

空はたったひとつなはずなのに、

 

 

港の空とも森の空とも違って、そこにはそこの空があった。

 

 

 

 

 

「どうしたの?」

 

 

女の子は少し息を切らしながら尋ねた。

 

 

 

霧が晴れ、女の子の表情が男の子にははっきりと見えていた。

 

 

 

「君の顔をちゃんと見たかったんだ!霧の晴れた青空のしたで君をみたかった」

 

 

 

「君はそんなにもきれいだったんだね」

 

女の子は顔が真っ赤になった。

そんな真っ赤なままへへっと笑い、

「恋する女の子はかわいいんだぞ」

 

 

男の子の左には女の子がいた。

 

女の子の右には男の子がいた。

 

 

 

 

10年後、青年の右には小さな女の子がいた

女性の左には小さな女の子がいた

 

 

 

「パパ、ママ、またあの塔の上にお空を見に行こう」

と、女の子が笑っていながら青年と女性を見上げていた

 

 

 

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コメント: 1
  • #1

    szeptucha (金曜日, 17 11月 2017 23:53)

    nieprzeszmuglowanie