しづごころなく 【1:1】

登場人物

晴太(はるた♂)

桜乃(さくの♀)

 

背景

晴太はもうすぐ高校1年生が終わるそんな日に桜乃を屋上に呼び出した。

太陽がだいぶ傾き、校舎にいる学生たちの姿もまばらになり、春先だが夜が近くなってきても

どこかあたたかい。

そんななか晴太は桜乃につらつらと話始めた。

まるで話すことが予定調和であったかのように、恥ずかしげもなくただ素直に話し出した。

 

~以下シナリオ~

 

 

晴「なぁ、桜乃

桜の花びらが舞い落ちてるなか初めてお前を目にしたんだ。

校門から続く桜並木を君はひとり背筋をのばしてりんと歩いていた。

お前のまわりだけ桜の花びらが踊っているような気がした。

ひらひらと

ゆらゆらと

俺の心もゆらゆらと揺れていた。

今ならもうわかる。

俺はお前にそれからずっと恋をしてるんだ」

 

桜「はは、突然の告白だねぇ。そうだったのか…ありがとね」

(そういいながら目を伏せる)

 

桜「太くんに好きになってもらえるなんて、こんなに光栄なことってないね。

 

…でも、ごめんね。晴太くんが私に向けてくれる好きに見合うだけの愛情を返すことはできないや」

(そんな言葉をいいながら桜乃は顔を上げ、晴太を見る。その顔は笑顔だった)

 

晴「あぁ、そんなことはわかってた。

出会った時から1年間ずっと目が離せなかったから。

でもさ、おかげでわかりたくないこともたくさん知るはめになったよ。」

 

桜「なんのことかな、わかりたくもないことって…クラスに嫌いなひとでもいたのかな…」

 

M (こいつはいつまでとぼけるつもりなんだろう。

こんなことしてなんになるんだろう。

ここまでして隠す必要はもうどこにもないじゃないか)

 

晴「いや、嫌いなやつなんてひとりもいなかった。

こんなにいい奴ばっかのクラスなんて本当にあるんだって感動すらしたよ。

…俺さ、すっげぇ(みず)(の)のことが好きなんだ。

あんないい奴いなし、これからもずっと親友だと思ってる。」

(桜乃の手がぎゅっと握られる)

 

晴「俺が瑞野と友達になれたのってお前のおかげなんだよ。

お前がいたから、俺はあいつのことを好きになろうと思ったんだ」

 

桜「そっかあ!そうだね、瑞野くんと私仲良かったからね。

そういった関係で仲良くなれたっていうなら私もうれしい限りだよ」

 

晴「仲がいい…うん、たしかにそうだな。

でも、単純に桜乃と仲がいいだけなら、俺はこんなにもあいつのことを好きになろうとなんてしなかったさ」

(桜乃はほとんど顔が見えないほどにより深くうつむく

晴太からは横顔から今度はくちびるがぎゅっと噛みしめられているのだけがわかった。)

 

晴「好きなひとの好きなものを自分も好きになりたいってことないか?」

 

桜「…」

 

M (なんでこいつは何も言わないんだろうか。

なぜわざわざそんな苦しい道を選ぶんだろう。)

 

晴「なぁ、つらくないか?いつまでもそんな態度をとっていて。

言いたいこと言って、素直に生きたほうが楽なんじゃないのか?

桜乃を見てるとつらそうにしか見えないんだよ」

 

桜「あのね…ダメなんだよ、口にしたら。世の中どれだけ自由に生きようと思ってもさ、

ダメなんだ。大事なものができちゃうとさ。

きっと私が今素直になったらつらい気持ちにさせてしまうひとがいると思うの。

そのほうが私にはよっぽどつらいんだよ」

 

晴「…つく」

 

桜「え?」

(桜乃がようやく晴太を見た。

本当に何と言ったか聞こえなかったようだ)

 

 

晴「…むかつく」

(今度は目を見てはっきりと伝えた)

 

晴「じゃあ桜乃のつらさはどこにいけばいいんだよ!誰がおまえのために不自由を選んでくれるっていうんだよ!!なんでおまえばっかりそんな役回り買って出てんだよ!!

どうして…そんな…」

 

桜「もう、なんでいきなりそんな怒り出すかな。大丈夫だよ、私は大丈夫だからね。ありがとう心配してくれて」

(すこし困った顔で笑いながら、何でもないようにありがとうと答える)

 

晴「なんでありがとうなんだよ、くそ…」

(血が出るんじゃないかってくらい晴太は唇をかんだ)

 

 

 

 

桜「本当にありがとうね、本当にうれしいよ。

これは本当。

晴太くんはやさしいよね。とても…すごく」

 

晴「違う!やさしくなんてない!!すごく傲慢でわがままで…自分のことしか考えてなくて…」

 

(その時、渡り廊下に瑞野の姿が見えた。

晴太は立ち上がり、屋上のフェンス越しに渡り廊下の瑞野を呼んだ)

 

晴「おーい、みーずのー!!」

 

晴「お、彼女と一緒なのかー!付き合いたてだからって仲良すぎだよなー、お前ら!!」

 

晴「瑞野にはほんともったいないくらいかわいい彼女だよなー!!高遠(たかとお)さーん!瑞野が嫌になったら俺のところにきてもいいんだぞー!!」

 

晴「おー、瑞野焦ってるねぇ。そんなに高遠さんのことが大好きかー!?」

 

晴「いい恋してんな!!おう、じゃーなー!!」

(返事をする瑞野に晴太は大きく手を振った。その後ろで、桜乃も笑顔で手を振った)

 

晴「大好き……だってさ。

なぁ…なんでそんな言葉聞いて、お前は笑顔であいつらに手を振れるんだ」

 

M (そこで笑う桜の気持ちが俺にはわからなかった。

いや、もっと言うと気持ちが悪かった。

この一年間ずっと俺が桜乃に対してしてきたこととはもう次元がちがった。

とてつもなく頑固で意固地で頑なで、たぶん桜乃を好きじゃなかったら彼女のきもちには俺も何も気付かなかったんだろう。

 

晴「なんでそこで笑うんだよ…。

笑って何になるんだよ…。

そんなの全部お前が抱え込んで…

それでいったい誰が幸せになるんだよ!!」

 

桜「抱え込むってそんな、大げさな」

(また少し困ったように、笑顔を作る)

 

晴「違うんだよ…違うんだ…嘘でもいいからさ、そういう時は泣いておくんだ!じゃないとかわいそうだろ!!!」

(桜乃の顔から笑顔はなくなったがそれでもまだ泣くことはなかった。

かわりに、まっすぐに目を合わせてはっきりしたきれいな声でいった。)

 

桜「私は瑞野くんを困らせるようなことはしたくない。

ううん、瑞野くんだけじゃない高遠さんのことも絶対に困らせたくないの。

つらい気持ちにさせたくないの。

私はそんなにできた人間じゃないし、私ができることなんて本当に限られてるの。

私は瑞野くんに幸せになってほしい。

そのためにできることは全部したいの。

ただ…それだけなの。

それだけで…いいの」

 

晴「いい加減にしろ!そんなつらい顔で誰かの幸せを祈ってどうするんだよ!
おまえの気持ちが黙って殺されていくことを喜ぶ奴か!?誰かの死んだ気持ちの上に成り立ってる幸せを、そんな幸せをおまえは瑞野に与えたいのか!?

……ふっざっけんなあぁ!!!」

 

桜「だから…だからさ…だから!だからなかったことにするんじゃない!!最初っからなかったことに…死んだんじゃない最初っからなかったのよ!!」

 

M (はじめて桜乃が大声をあげたのを聞いた気がする。

だけど、もう桜乃の表情を読み取っている余裕すら俺にはなかった。

ただあとからあとから流れ出てくる感情をようやく言葉にすることで精いっぱいだった)

 

晴「おまえの愛情はだれよりもやさしくて、なによりもあったかい!!

  そんなおまえ自身の愛情を見くびってんじゃねえよ!!

おまえの愛情は誰かを不幸になんか絶対にしねえ!!

だからいいんだ!素直にいってもいいんだ!!

俺はおまえが好きだ!大好きだ!!俺が好きなのはこの世でたったひとり桜乃だけだ!!お前が大好きなのはだれだ!おまえが四六時中目で追って、心の中で思い描いて、そいつの幸せばっかり考えて!言ってみろ!」

 

桜「嫌だ…言いたくない」

 

晴「言え!!」

 

「嫌だ、嫌だよ…」

 

晴「言ってくれ!!!」

 

桜「嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だやだやだやだやだやだやだやだやだ」

 

晴「言っえええええええええええええええええええええ!!!

なんでそのたった一言が言えないんだ!ずっとずっと心の奥に閉じ込めて…おまえの気持ちだろ…おまえが大事にしてやらなくてどうすんだよ!」

 

桜「嫌だよ!これを口にしちゃったらもう私は私を誤魔化せなくなっちゃうよ!!

それにこんな気持ち、誰も幸せにならない!!言いたくない!このまま、なかったことにするの!!」

 

晴「ばっかやろう!!誰かが誰かを好きになった気持ちをなかったほうがいいなんて言うな!俺は…俺は桜乃を好きになってよかったって思う!桜乃を好きになれたから俺は瑞野も好きになった、この学校を好きになった、この人生を好きになれた…自分を好きになれたんだ。

だからおまえも…もう。

もう、自分を誤魔化すな!誤魔化して笑ったりすんな!!

おまえがどれだけあいつを好きだったのか聞いてやる、

お前がどれだけつらかったのかわかってやる、

俺が…俺が一緒に泣いてやるから

だからもう好きだって気持ちをなかったことにするな…お願いだから。

じゃないと…俺までこの気持ちをなかったことにしなきゃいけなくなるだろ…」

(晴太の目からぼろぼろと涙が大量にあふれてきた)

 

桜「そ、そんなの…だって…う、う…言ったら絶対…う……

  うわあああああああああああああああ」

(桜乃の目からも同じように大粒の涙が桜乃の目からもとめどなくあふれ出てきた。)

 

桜「ばかぁ、ずっとずっと我慢してたのに。

ずっとずっとみんなが幸せでいられるようにってずっと我慢してたのに。

私がこの言葉を言ったら…だって…晴太くんのことまで傷つけちゃうから…だからずっと我慢してたのに…うわあああああぁ」

 

桜「瑞野に伝えろって言ったって頑固な桜乃のことだ、絶対に言わないんだろうけど。

せめて俺には言ってくれ。頼むから…おまえのあんなつらい笑顔、もう見たくないから」

 

晴太M (子どもみたいにスカートをぎゅうっと握りしめながらぼろぼろ泣いている桜乃の姿を見て抱き寄せずにはいられなかった)

 

(桜乃は振りほどくでもなく、だが応じることもなく、固くスカートをぎゅうっと握って泣いていた)

 

桜「私は…瑞野くんが好きなの」

(たったひとことだけ、泣き声に埋もれてしまいそうになりながらも、しっかりと言った)

 

桜「だから、晴太くんのことはこれ以上好きになれない…」

 

晴「ありがとう桜乃、やっぱりおまえってさ

  やさしいよな」

(そう言いながら、晴太は一回だけ強く抱きしめてから桜乃から離れた。

桜乃の涙はまだまだ止まることがなさそうな勢いだった)

 

晴「桜乃、またいつでも泣きに来ていい。俺はおまえが大好きだ。だから、付き合いたいなんて言わない。

だけど、ずっとそばにいてやる。泣きたくなったら、つらくなったらまた俺んところにこい」

(そう言った後は桜乃が泣き止むまで隣に座って夕日が校舎の陰に沈んでいくのを見送っていた。)

 

 

 

 

M (それから以降、結局桜乃が俺のところに泣きにきたことは一度もなかった。

     こんな夕暮れになると、あの時を思い出す。

あの日見た桜乃の涙は夕日の照らされてきらきらしてとてもきれいだったのは、

これからもずっと忘れられそうにもない。

 

 

晴「なぁ、桜乃…もうつらくないのか?また、泣いたっていいんだぞ…」

 

桜「ん?相変わらず突然だなぁ。

そうだね、もうつらくない…って言ったら嘘だけど、

ただ…うん……いや、なんでもない」

 

 

M (桜乃の顔が夕日に照らされて赤く見えた。

たぶん俺の顔も同じように夕日で赤くなってたんだろう)