惑星

 

まっさらな草原の上、真っ暗ななか、寝転んだ少年は嬉々とした声で隣の大人としゃべっていた。

『あの、まっかにひかるほしかっこいいね。おとうさん、あのほしはなんていうほしなの?』



『あぁ、あれは火星だよ。地球と一緒で太陽のまわりをぐるぐる廻っているんだ。火星は他の星と違って、自分で光ってるわけじゃなくて、太陽に照らされて光っているんだよ』
お父さんは大きな楽器を抱えて楽しそうに話してくれた。



少年は感動した表情でいつまでも見上げていた。



真っ赤に光る星がなんとも言えず、格好よくて暖かい気持ちにさせてくれるようだった。


 

 

 

 

『じゃあ、世界中のみんながかせいにひかりをあてたら、かせいはもっともっとひかるのかな?』

 

 

 




 

 

眼を開けると、そこは自分の家のリビング。
右を見上げるとお母さんが泣いている。
僕の手をぎゅっと握りしめて、震えている。 

 


数日前のことを思い出してるうちにお母さんは泣き出していた。


お父さんは箱のなかで無表情に眠っている。


 

夜空の下で、一緒に星を見上げた眼はまぶたに隠れてて見えない。

 

星のことをたくさん教えてくれた唇は動かない。

 

お父さん、お母さんが泣いてるよ!僕はどうしたらいいのかな!!



 

いつもみたいに笑いかけてくれないお父さんと、静かに泣くお母さんが、

お父さんがどうなったのかを、言葉なんかよりもよっぽど残酷に教えてくれた。

お母さんは、ただ一言

「お父さんは星になったの」

とだけ教えてくれた。


一粒の涙も流せないまま、いつの間にか全てが終わっていった。
神様に祈りを上げている最中も、お父さんが棺に入って焼かれるときも、みんなが泣いているなかでも、

僕は泣くことができなかった。

 

 





少年と母親は家のなかのお父さんのものを片付けていた。
すると不思議なものを見つけた丸い筒に取っ手がついたようなものだ。


「おかーさん、おかーさーん。これなーに?どうやってつかうの?」

お母さんはぎこちなく笑いながら顔をあげた。
「あぁ、それはダイナモよ。取っ手を回してごらん。光るから」



言われたとおりにしてみると、筒の先から光がでてるのがわかる。



お母さんも笑いながらこっちを見ている。

何を思い出してるのかは少年にも一目瞭然だった。お母さんがこういう風に笑う時はいつもお父さんがいた時だ。

 

「お父さんはチェロが好きだったからね。舞台に立つときはそれを使ってたのよ」



少年はある言葉を思い出した。



「おかあさん、これぼくにちょうだい!」

少しお母さんはびっくりしたが、すぐに笑顔にもどった。
「いいわよ。ただし、大事にするのよ」

ありがと!」



少年はダイナモを大事に抱えて自分の部屋に戻った。



夜になって、少年は出掛けてくるとお母さんに告げて飛び出した。
お母さんは心配しながらもどこに行ったか見当もつかず、しばらく待っていた。

すると、少年はしょんぼりとして帰って来た。





そんなことが数日つづいた。
「きっと明日はでてるはずだ…」
そんなことをつぶやきながら少年は眠りについた。




次の日の夜、少年はまた飛び出していった。飛び出した先はあの草原だった。


やった!きょうはでてる。あれがきっとおとうさんだ。だっていちばんかっこいいもん。あのあかいほしが」

少年は抱えてきたダイナモを急いで火星に向けた。



これでもっとおとうさんはひかるんだ。もっともっとあかくかっこよくなるんだ」


少年は目一杯取っ手を回した。



しかし、頑張れば頑張るほど火星は光を失っていった。


それに気付いたころ、少年の目からはぼろぼろと涙がこぼれていた。

少年にはなんでそうなるのかはわからなかった。

なんでそうなるのか教えてくれるお父さんはもういない。

 

 


「なんで?かせいはてらされてひかってるんだよ。おとうさんはいってたのに。なんで、きえちゃうの!?」


涙があふれていても、かまわずに回し続けた。



お父さんが教えてくれたことを嘘にはしたくなかった。

お父さんが言ってくれた言葉を大事にしたかった。

 

 

 

 

 

だから必死にダイナモを回し続けた。

 





少年は青年と言える年になった。今日もダイナモとチェロを抱えて草原にきた。


女性がひとり膝を抱えて夜空を見上げている。


青年はダイナモを女性に渡し、チェロを構えた。
女性はダイナモを青年に向けてハンドルを回しだした。



ゴメン、違うんだ。あっちを照らしてほしいんだ。あの赤い星に向けて」




女性は不思議そうに首を傾けたが、次には笑って星に向かってダイナモを廻していた。

 

 



父さん、一番最初のダイナモの光はそろそろ届いたかな」

 

 

 

 

爽やかな風に明るいダイナモ、軽妙なチェロ

空には赤い星が今日も輝いてる。