大きくなる月 【1:1】

♂:『』

♀:「」

 

 

『最近やっぱ月が大きくなってる気がするんだよな』 

 



「だからそんなのは気のせいだって」 

 

 

 

『…せっかくまどろんでいい気分で昼寝してたのに、お前はなにをしてるんだ?そんなところで…』

 

 

「へへへー」

 

 

『へへへじゃねえぞ、いたずら小僧みたいな顔しやがって。みんながお前をかわいいって言うからって俺まで甘やかすと思うなよ』

 

 

「何よそれ」

 

 

『そのいい笑顔がいたずらするのに便利だから身についたって話を聞くまでは、俺もそのさわやかな笑顔はかわいいって思ってたよ…聞くまではな』

 

 

 

「なんだ、じゃあ教えなければよかった」

 

 

 

『それでだ、なんでおまえがいるんだ?ドアも窓も鍵はしまっていただろうが』

 

 

 

 


「ふっふっふ、昨日みんなで飲みに来たとき、帰ったと思わせてそのまま押入れに隠れていたんだよ!どう、びっくりした?!それにしてもさぁ、昨日は布団出さずにそのまま寝ちゃうから、暗い押入れのなかでどれだけ暇だったことか!!しっかり布団で寝ないと風邪ひくぞ!」

 

 

「…ってことでお昼にしましょ。今日のご飯はなっにっかな~」



 

『子供か…お前は。ってかお前も昼まで寝てんじゃねえよ』

 

 

 

 

 

「いいじゃん眠かったんだから。それよりねぇ、まだぁ?今日はカレーうどんな気分だなぁ。ネギ抜きのお肉たっぷりなやつ!」

 

 


『そんな面倒くさくて金のかかるもんつくるわけないだろ。しょうがないから具無しオムライスで我慢しとけ。作ってるあいだ静かにしとけよ』

 


「やったね、オッムライスッ!オッムライス~♪」

 

 

『なんだよ、結局喜ぶのかよ』

 

 

 

 



『よし、騒いでないでお前も手伝え。窓あけて皿の準備だ』

 

「はーい」

 

 

 

 

『よし、できた。ケチャップは勝手にかけろよ』

 

 

 

「いただきます!」

 

 

『我ながら上出来だな…ふぅ。それにしても最近はまったりなんにもない日が続くなぁ』

 

 

 

「そう?私はここ最近、割と刺激的だったなぁ。 何があったわけじゃないけど、考え方しだいだよ」

 

 


『何があったわけじゃないって…おまえまた告られたって聞いたぞ?そのうえ一晩だけで振ったって噂になってるし。刺激的どころか刺激だらけの日々じゃねえか』

 

 

 

「うわぁ、そんなことになってたのかぁ。それは、そいつの嘘だよ。振られた腹いせじゃない?あいつじゃあ付き合うどころか、一晩だけでもちょっとね…」

『ほぉ、なんとも大人な発言だな。そいつ以外なら一晩の関係もあるってことか』

 

 

 

「嫌味だねぇ、これでも純情なんだよ?」

 

 

 

「純情ねぇ…純情すぎてまだ前の彼氏のこと吹っ切れてないのか?」

 

 

 

 

「いきなり地雷を踏むあたり、君の勇気は勲章もんだよ。

んー、自分ではそんなつもりないんだけどね。ただほかの人と付き合う気にはまだちょっとなれないかな」

 

 

『へぇ、どこがそんなに好きだったの?』

 

 

「別にどこっていうわけじゃないんだけど。『どこ』が好きかよりも、『誰』が好きかの方がよっぽど大事じゃない?私は『彼』が好きだったの。いいところ、悪いところはあっても好きじゃないところなんてひとつもなかった」

 

 

 

『なんだ、未練たらたらじゃん』

 

 

 

「だから、そういうんじゃないって。好きだった人を嫌いになるのが嫌なだけだよ。だってせっかく好きになれたんだよ?もったいないじゃん。幸せな思い出くらい、幸せなままとっておきたいでしょ?」

 

 

 

 

『結局それのせいで誰のことも愛せなくなってたら意味ないじゃん。それは今を、未来を見ないように目隠しして生きてるだけだろ…単なる引きこもりじゃねえか』

 

 

 

「違うよ!そんなんじゃないよ!!その人より好きになりたいって人がいたら私は付き合うもん!!ただ、それだけ好きになれる男がいなかっただけだもん!」

 

 

 

『だから、それが間違ってるって言ってるんだよ!なんでその男と比較してしかひとを見られないんだ?もっとそいつだけを見てやれよ!』

 

 

『なんでお前は頭がいいのに、そんなに頑ななんだ』

 

 

 

「だって!だって…しょうがないじゃん。好きなんだもん…」

 

 

「私にとってあの人はいなくなっちゃいけなかったの。あの人の声、吐息、唇、視線その全てがなくなるんだって理解したとき、本当に怖かった。今も彼の思い出が少しずつ消えていくのが怖いの…」

 

 

 

 

 

 

『泣かせたかったわけじゃなかったんだ、ただ前を向いてほしかったんだ』

 

 

 

 

 

「そういうタクミは割り切りすぎなんだよ…いっつも付き合う前からどっか別れること考えてるでしょ。そんなんで本当に愛してるなんて言えるの?」

 

 

 

『…別にわかれることを考えて付き合ってるわけじゃない』

 

 

 

「いや、考えてるね!いつも嫉妬なんかしませんみたいな顔してさ。いつもどこか諦めた雰囲気だしてさ!そりゃ彼女だって一緒にいたら辛いでしょ」

 

 

 

『そういうわけじゃないんだ。ただ、ただ…。

…いつか別れるかもしれないって覚悟しておかないと、実際そうなったときに耐えられる気がしないんだ!それくらい大好きだってだけだ』

 

 

 

『あぁ、なんでこんなこと言ってんだ俺』

 

 

 

 

「やーい、不器用…」

 

 

『泣きながら言われてもなぁ。

お前も十分不器用だろ』

 

 

 

 

 

『…なぁ、もしかして俺たちってさぁ、あんま生きてくのに向いてないのかね』

 

 

「今更何言ってんの!?そんなのずっと前から知ってるよ。今頃気が付くとか案外タクミってバカだね。やーい、ばーかばーか」

 

 

『そこはいたずら小僧な顔なのな』

 

 

 

 

『好きなだけなんだけどな』

「そうだね、大好きでしょうがないだけなんだけどねぇ」

 

 

 

 

『もしもさ…もしも、もっと違う場所で…もっと自由に生きられたら、

俺たちの生き方も変わる気がしねえか?

俺たちのことを誰も知らない、でもどっか少し懐かしい匂いのする俺たちの街。

新しいことづくめの宝箱をひっくり返したみたいなそんな街にいけたら。なんか楽しそうじゃねえ?』

 

 

 

 

「んー…いいじゃん、いこうよ!それ楽しそうじゃん♪宝の街…宝街っていかにも楽しそう」

 

 

 

『冗談のつもりだったんだけど、案外乗り気なんだ』

 

 

 

 

「でもその前に一個聞いておきたいことがあるんだけど、タクミは私のこと好き?付き合いたいって思う?」

 

『絶対付き合わない。好きかと言われれば好きだが、付き合うことは絶対ねえよ。

なんだその質問は』

 

 

 

 

 

「はぁ…よかったぁ、付き合いたいって言われたらどうしようかと思った。そんなこと言われたら友達やめなきゃいけないところだったよ。」

 

 

 

『そんな大事な話だったのか!』

 

 

「だって、その街にいくのに、相棒がそんな気持ちだったら絶対うまくいかないもん!私とおんなじ気持ちでよかったなぁって」

 

 

『そりゃまぁ、そうだけど。…少しはタイミングってもんも考えろよ。

そんな大事なことを、そんな気軽にやるな』

 

 

 

「えっへへぇ。いいじゃん、結果オーライだったんだから」

 

 

 

『まぁ、いっか。それじゃあ行く準備するか、相棒』

 

「うん、いくよ!相棒!!」

 

 

 

 

 

 

 

『食堂の濃い匂いや、工場の機械油なんかの臭いがする。

 

 

新しい街のにおい。

新しく出会ったひとのにおい。

新しい恋人のにおい。

 

でも、どこか懐かしいにおいがする街。

 

 

あぁ、懐かしいにおいは相棒のか』